ユーザーの視点で、ユーザーの関心に沿い、ユーザーが求めるコンテンツを中心にすれば、サイトを機能するものにするのは簡単です。にもかかわらず大半のサイトは、運営者の視点で運営者が伝えたいことを中心にした構成を取っており、当然の結果としてサイトは十分に機能していません。この記事ではユーザー中心へと運営者の意識を変えて、サイトを機能するものにするための考え方を示します。
ユーザーがサイトに訪問する目的
ごく基本的な質問です。あなたの会社のサイトでは、ユーザーは何を目的にサイトに訪問すると想定しているでしょうか?
- ユーザーは問い合わせや資料請求、購買など、何らかのコンバージョンを目的として訪問する
- ユーザーはコンバージョンの前段階として、競合する製品やサービスまたはそれらの提供者との比較検討を目的として訪問する
- ユーザーは製品やサービスの購入を通して、抱えている課題や問題を解決することを目的として訪問する
おそらく多くのサイト運営者が、上記のように答えるでしょう。事実、多くのサイトはコンバージョンや比較検討、製品やサービスによる問題解決を意識したサイト構成であり、次のようなものを中心とした内容になっています。
- コンバージョンを強くうながすメッセージと、強調されたコンバージョンへの動線
- 比較検討の材料となるデータの掲出と、製品やサービスの品質、価格についての優位のアピール
- その製品やサービスを購入した場合に起きるユーザーの変化を具体的に想像させる文章や写真の提示
あなたのサイトの内容が上記のようなものだったとしても、集客を広告に頼っているか、または楽天などのショッピングモールに出店しているのであれば、広告を出稿し続け、出店料を払い続け、安売りを続ける限り問題はありません。なぜなら広告やモール出店は、買い物を意図するユーザーを集めることに最適化されたモデルだからです。
広告やモールに頼らない集客を志向しているにもかかわらず、内容が上記のようなものに偏っていた場合、あなたのサイトが集客に苦戦しているだろうことは容易に想像できます。その苦戦は当然の結果であり、苦戦すべくして苦戦しているのです。
上述のようなサイトの構成は「ユーザーは製品やサービスを求めている」という前提の元に構成されています。しかし実際のユーザーはほとんどの場合、あなたの製品もサービスも求めてはいません。ただ、課題や問題、悩みを持っているだけです。
潜在客はコンテンツを求めている
ほとんどの場合、検索などを経由してユーザーがサイトを訪れるとき、その目的はコンテンツを見ることです。問い合わせや資料請求や購買を意図したものではありません。何からの課題、問題、悩みなどを抱えており、それを解決する助けになるような有用なコンテンツを探しているのです。
今あなたはコンテンツを求めてこのページに訪問していますし、このページを訪問する前にも別のコンテンツを見ていたか、コンテンツを求めて検索していたか、コンテンツを求めてソーシャルメディアを眺めていたはずです。そしてこのページを去った後も。
下の画像は2011年4月に発表された AOL Research の Content is the Fuel of the Social Webからの引用で(この調査結果に関する詳細)、人々はオンラインで過ごす時間の半分以上をコンテンツの閲覧に充てているということが示されています。
上の調査結果において、商取引や決済は「その他」の扱いです。この調査結果から求められる明らかな答えは、ユーザーがサイトを訪問する目的のほぼすべてはコンバージョンではないということと、目的の半数以上はコンテンツであるということです。
購買意欲のあるユーザーだけを対象としたサイトを運営している場合、コンテンツを求めている多くのユーザーを取り逃がしていることに気付くべきです。そして取り逃がしたユーザーの中には、あなたの潜在客も含まれていることに気付くべきです。
そもそもコンテンツとは何か
サイト中を売り込みのメッセージで埋め尽くしておいて「豊富なコンテンツを用意した」などという人がいます。これはまったくひどい勘違いです。自社の製品やサービスの優位性を自己宣伝し、購入を迫るだけの売り込みのメッセージをコンテンツとは言いません。
- コンテンツの定義
- 教養または娯楽に属する著作物であって、受け手の文脈に応じた価値のある情報や体験を提供するもの
コンテンツとは上記の定義のように、利用者に教養または娯楽を提供する著作物のことです。カタログやチラシのような売り込みは、教養も娯楽も提供しません。それらはコンテンツではないのです。
他媒体を例によりわかりやすく説明するなら、民放テレビにおける番組がコンテンツであり、CMが売り込みです。新聞や雑誌においては記事がコンテンツであり、広告が売り込みです。サイト上のカタログやチラシのような内容はCMや広告に相当するものであり、番組や記事に相当するコンテンツではありません。
教養(役立つ知識)を提供するコンテンツは検索での露出が効果的であり、娯楽を提供するコンテンツはソーシャルメディアでの露出に適しています。それらはユーザーが自発的に求めるものだからです。一方で売り込みのメッセージはユーザーに求められていないため、ユーザーに届けるためには広告を通じ費用をかけて押しつけるほかありません。
ユーザーの邪魔をしていないか
ユーザーが望むような有益な情報を検索結果に露出させることは簡単です。そして、訪れたユーザーの支持を得ることもまた簡単です。一方、ユーザーに求められていない売り込みを検索結果に表示するのは難しく、支持されるのはもっと困難です。
上の図において、右上に示した利用者中心のサイトは、ユーザー目線で有益な情報を発信しているサイトです。右下に示した運営者中心のサイトは、売り込みのメッセージだけに特化したよくあるサイトです。どちらがユーザーの支持を得やすいかは一目瞭然でしょう。
考えてみてください。勤務中、テレアポ営業や飛び込み営業の応対で仕事を中断させられるのは非常に迷惑で気分の悪いものです。オフタイムのショッピングでも、相談に乗るのではなく売り込むことだけを目的につきまとってくる販売員は迷惑なだけで、その販売員を避けるために店から退出することすらあります。
では、ネットで調べ物をしているときはどうでしょうか? 有益な情報を期待して検索結果から訪問したページが売り込みだけで構成されていた場合、たいていの人は、時間を無駄にしたと後悔しながらブラウザのバックボタンを押して検索結果に戻るでしょう。
売り込みのメッセージで埋め尽くしたサイトを検索結果に表示させようとするのは、激務に追われる勤務中の人物にテレアポ営業の電話をかけるようなものです。たまには運良くカモを引っかけることができるかもしれませんが、それ以外のほとんどの人を邪魔し、悪印象を残しているのです。
運営者中心のサイト、ユーザー中心のサイト
ユーザーが求めているのはコンテンツであるにもかかわらず、それを無視し、コンテンツではなく売り込みのメッセージ(セリング)でサイトを埋め尽くすのは、売り込みを重視しユーザーを軽視する企業風土の表出です。運営者の態度はサイトの構成に反映されるのです。
たいていの企業は「顧客第一主義」や「顧客満足度経営」などといった指針を掲げていますが、それが薄ら寒い建前にすぎず、実態は自己中心的で利益優先でありユーザーを格好の獲物程度にしか考えていないことは、サイトの内容を見れば誰でもすぐに看破できます。
ユーザーの知識になるようなコンテンツを発信しないサイトは、コンテンツを発信しないというその行為によって、運営者がユーザーの知識形成つについて次のように考えていることを証明しています。
- 消費者が知識をつけるのは不都合だ。賢い消費者はうちの商品など選ばない
- 消費者が知識をつければ、うちの売り込み口上が信頼に足るものでないことが露呈してしまう
- 消費者がどこかほかのサイトで知識をつける前に、今すぐにもコンバートしてもらわなければならない
コンテンツを発信しないサイトの運営者は、ユーザーに上記のように見られることを甘んじて受けなければなりません。実際はどうであれ、サイトを見る限りにおいてはユーザーの都合よりも運営者の都合を優先していることは明らかであり、そこに弁明の余地はないからです。
他方、ユーザーの知識になるコンテンツの発信を中心にするサイトは、コンテンツを発信するというその行為によって、次のような考えのもとにサイトが運営されていることが証明されます。
- 消費者はもっと知るべきだ。消費者にもっと知識があれば、消費者自身の意思で他社ではなくうちの製品やサービスを選び取ってもらえる自信がある
- 消費者が知識をつければ、製品やサービスをもっと効果的に活用できるようになり、消費者はより豊かな体験を得られる。これは消費者と自社の双方にとって好ましい
- 消費者が正しい選択をするためには正しい知識を獲得しなければならず、そのためにはこのサイトで正しい知識を発信していかなければならない
このようなユーザー中心志向でサイトを運営し、ユーザーが求める情報の発信を実施していれば、SEOによる集客で困ることはありません。検索を通じて、または各種のリンクやソーシャルメディアを通じて、集客は面白いほど簡単にできます。
しかし、ユーザー視点を忘れて売り込みに終始するサイトは、検索されるコンテンツを持たず、したがってユーザーに支持されることもなく、被リンクは集まらず、ソーシャルメディアで共有される機会もほとんどありません。集客は困難を極め、広告に頼るほかなくなるでしょう。
セリング中心のサイト、コンテンツ中心のサイト
ここで一度、セリング中心のサイトとコンテンツ中心のサイトの違いを表にして整理してみましょう。
セリング中心のサイト | コンテンツ中心のサイト |
---|---|
売り手が一方的に押しつける | 受け手が主体的に探す |
今すぐ購入! | この知識を役立ててください |
高度なノウハウがあると宣伝する | 高度なノウハウを公開し解説する |
自画自賛に辟易する | 有用な情報に感謝する |
運営者が儲けることが目的 | 利用者の役に立つことが目的 |
売り手中心 | 利用者中心 |
慇懃無礼な態度 | 誠実で真摯な態度 |
手っ取り早く売上げを立てる | じっくりと信頼を勝ち取る |
警戒心を刺激する | 愛着心を醸成する |
厚顔で無能 | 謙虚で有能 |
見込客を刈り取る | 潜在客を育てる |
近視眼的 | 中長期的 |
ここまで見れば誰でも、ユーザー中心、コンテンツ中心のサイトを運営すべきだということは理解できるはずです。ところが、いざサイトに手を入れようとすると、いつのまにか売り手中心、セリング中心に戻ってしまいます。
どうしてそうなってしまうのでしょうか? 実のところ、売り手中心志向、セリング中心志向というのは根深いもので、根本的なところで意識を変えなければ、なかなか抜け出すことのできないものなのです。
意識を変えていくために
ごく自然なこととして、売り手というものは自分が扱っている製品やサービスに対して、強い思い入れや愛情、誇りを持っています。そしてぜひ買ってほしいと強く願っています。売り手の自然な感情とはそういうものです。
そして売り手のその想いを存分にサイトに詰め込めば、自画自賛と売り込みに満ちた、売り手目線のサイトが完成するというわけです。この流れにまったく不自然なところはなく、多くのサイトがこうなってしまうのも無理のないことです。
しかしウェブサイトの運営においては、そうした意識は変えていく必要があります。買い手の視点、ユーザーの視点から見て興味深く感じられるような、注意を引くような話題を探っていかなくてはなりません。そのためには、念頭に置くべき前提があります。
- 買い手はあなたの会社にも製品にもサービスにも興味がない。あなたの苦労にも興味がない
- 買い手の興味の対象は常に買い手自身である
- とりわけ強く買い手が興味を寄せているのは、買い手が抱えている課題や問題、悩み、理想と現実のギャップについてである
- 買い手が求めているものは課題や問題の解決、悩みの解消または理想の実現と、それによってもたらされる豊かで実りある生活なのであって、何か特定の製品やサービスではない
- あなたがすべきことは、買い手が抱えている課題や問題を中心に話題を展開することである
製品やサービスを売ろうとするから、製品やサービスのことばかり話題にしてしまい、結果として自画自賛と売り込みばかりになってしまうのです。そうではなく、主体となる視点を買い手に移し、買い手が関心を寄せていることを話題にしなければなりません。
コンテンツを見てくれたユーザーに、自分自身のことについて書かれていると感じてもらい、自分にとって有用だと感じてもらわなければなりません。そのためには、買い手が抱える課題や問題の解決、悩みの解消、または理想の実現といった、買い手にとっての関心事を話題にするのです。
本来あなたが扱っている製品やサービスは、買い手の課題や問題を解決し、買い手の生活や人生(B2Bなら事業活動)をより豊かで実りあるものにするために存在しているはずです。その原点に立ち戻らなければなりません。フォーカスすべきは、買い手が抱えている課題や問題、悩みなのです。
役に立たない売り込みばかりを掲載しているサイトは、その運営企業やその製品やサービスもまた、役に立たないものに見えます。役に立ちたいという意欲があり、実際にその能力があるのなら、それを行動で示さなければ誰にも伝わりません。
- 発信するコンテンツの正確さによって、信頼に足る売り手であることをユーザーに証明してみせる
- 発信するコンテンツの有用性によって、豊富なノウハウや専門的なスキルを持ち、ユーザーの役に立つ能力があることを証明してみせる
- 発信するコンテンツの視点の置き場所によって、売り手中心ではなくユーザー中心の姿勢で運営されている企業であることを証明してみせる
- そうして勝ち取った信頼によって、製品やサービスやその売り込みが信頼に足るものだとユーザーに確信してもらう
サイトを訪れるすべての人に、得るものがあったと感じてもらいたいと思いませんか? 新しい発見があったと感じてもらいたいと思いませんか?
たった1回の訪問でも、ユーザーと運営者の両方にとってその瞬間は二度と取り戻せない一度きりのものです。すべてはその一期一会の出会いから始まります。礼を失せず、1秒の無駄な時間も使わせず、精一杯のおもてなしをする、というユーザー中心の思考が必要です。あなたはそれを持てているでしょうか?