短期的な視点による場当たり的な対処ではなく、視野を広げ全体をとらえたうえで、各要素間の因果関係の構造に着目して問題解決や意思決定を行う考え方を、システム・シンキング(またはシステム思考)といいます。世界は複雑なシステムですから、システム全体を見渡す思考を身につければ、よりよい問題解決や意思決定が可能になるのです。

現実の世界は複雑なシステム

僕たちは小さい頃から、目の前にある事象を分析しようとするときに、それをできる限り細かな要素に分割し、それらの詳細を分析する方法を、半ば強制的に修得させられてきました。「要素還元主義」といわれる分析手法です。例えば、森を知るために、そこに生息している木について知り、木を知るために葉の数を数える、といった具合です。

しかし、実際の世界は複雑なシステムであり、その構成要素同士が複雑に関係しあった結果として、目の前にある事象や問題が発生しています。個々の木や葉だけをいくら研究しても、それを取り巻くシステムに着目しない限り、森の生態系は見えてこないのです。事象や問題の全容を見るためには、「木を見て森も見て葉も見る」というシステム・シンキング(システム思考)の視点が欠かせません。

例えば人間を知ろうとするとき、人間を構成する各種の細胞や組織について研究する、といったアプローチは、科学の世界で確かに多くの成果をもたらしたそうです。しかし、人間を構成する各種の細胞や組織がバラバラな状態で存在しても、それは人間ではありません。ただの細胞や組織に過ぎないのです。人間はそれらの細胞や組織が複雑に関係し合った結果、生命として存在しているのであって、人間自体が「複雑なシステム」なのです。

同じように、さまざまなプロジェクトや、会社や、経済のシステムや、社会環境や、地球環境や、宇宙までもが、複雑なシステムであり、我々は要素の世界に住んでいるのではなく、複雑な系の中に住んでいます。このような考え方は、実のところ非常に東洋思想的で、我々にはなじみの深いものに思われます。因果論や「風が吹けば桶屋が儲かる」といったようなものに近いからです。

要素還元主義による問題解決の限界

今までのさまざまな科学の成果は「要素還元主義」によってもたらされましたが、しかし、今僕たちが日常的に対面しているさまざまな問題、例えば人間関係や、生産性や、収益性、といった問題を解決しようとするとき、要素還元主義はかえって邪魔になることがあります。

目の前の問題を表面的に解決した結果、問題の根本をより深刻化させたり、一見解決したかに見えても、それがまったく解決につながっていなかったりします。システム全体を見て根本から問題を解決しようとせず、表面だけを見て場当たり的な対処をしても、短期的にはそれなりの成果をもたらすかもしれませんが、長期的に見れば問題は再びやってくるのです。

例えばサーバの負荷が高まったという現象を受けて、サーバの処理能力を上げ、一時的に負荷を低減することに成功したとしても、最適化されていないプログラムを放置し続けていたり、不要なリクエストを受け入れ続けていたり、端末のウイルス感染を放置し続けていたりすれば、いずれまた同じ問題が形を変えて表面化することになります。

また、ある従業員が職場の人間関係に疲弊して生産性が落ちたという現象を受けて、配置転換を行ったとしても、その従業員の問題の根本は帰宅時間の遅さからくる家庭内の断絶にあり、そこで生まれた精神的な不安定さが職場に持ち込まれているのかもしれません。もしそうであれば、配置を転換しても、一時的には職場の人間関係は改善するかもしれませんが、いずれまた同じ問題が(おそらく形を変えて)また発生します。

システムを大局的にとらえて問題解決に活かす

システム・シンキング—問題解決と意思決定を図解で行う論理的思考技術人間は、どうしても表面化した事象に目を奪われがちです。しかし、その事象が表面化した背景には、相互に関係し合い依存し合うシステムがあり、そのシステムはまた別のシステムと相互に関係し合い、依存し合っています。

システムとはどのようなものかを知り、その構造を解き明かす方法を知っていれば、事象とその背後を理解し、問題解決に近づけるかもしれません。

システム・シンキング—問題解決と意思決定を図解で行う論理的思考技術」(バージニア・アンダーソン、ローレン・ジョンソン 著)は、このシステム・シンキングの概要を解説した上で、問題を図に展開しながらシステムを考える方法と、そのトレーニング方法について解説した書籍です。システム・シンキングがどのようなものかを理解できる良書です。