人間は生きている限りずっと、情報を得ながら学習し続けます。これはつまり、情報を探し活用する能力は人間にとって、生きるために不可欠な能力であることを示しています。情報を探すことは生きることと同義であり、情報探索のスキルはよりよく生きるスキルでもあるのです。

「情報」とは何を意味するか

欲しい情報をいかに見つけ、入手するか、という情報検索のスキルについては、僕はもともと強い興味を持っていました。今はインターネットのおかげで情報検索は飛躍的に容易になってはいますが、それでも欲しい情報が必ず入手できるとは限らず、苦労することもしばしばです。

そこで見つけたのが、情報検索のスキル—未知の問題をどう解くか(三輪 真木子 著)。その本の中では、情報検索について新しい視点が開かれるようなことが書かれていました。まず筆者は、この本の中で述べる「情報」とは何か、ということを定義することから始めます。

認知科学の立場では、受け手である人間を主体にとらえ、「情報」を、「メッセージの受け手の知識に変化を及ぼすモノ」と定義している。

僕たちが日々受け取っているメッセージの中には、受け手の知識構造を変化させるものと変化させないものがあり、受け手の知識構造に変化を及ぼすメッセージが「情報」なのだそうです。そしてそれが「情報」であるか否かは、受け手があらかじめ持っている知識や理解力、関心などの状況によって変化するものなのだそうです。

情報を探す行為=生きること

この「情報」の定義をふまえて、筆者は「情報を探す行為=生きること」と断じます。

情報検索のスキル「情報」が受け手の知識に変化を生むモノであるなら、人間にとって情報を探す行為は生きることと同義である。

(中略)

こうした知識は、有形無形の「情報」を取捨選択しながら、既存知識を変化させる過程で蓄積されていく。人間は生きている間、常に情報を得て既存知識を変化させ、新たな知識を生み出し、それを使って会話したり、ものを書いたり、決断を下さしたりしている。

このようにして、人間はその生涯を通じて情報を得ながら学習し続けるのである。だから、人間にとって、情報を探し活用する能力はまさしく、生きるために不可欠な能力なのである。

筆者の「情報」に対する情熱が垣間見れる文章だと思いました。確かに人間は生きるために様々な情報を求めますが、生きることと情報を探す行為が同義である、という著者の主張は、何か目が覚めるような感動すらあります。

自己効力感が最終的な到達レベルを決する

情報検索のスキルについて本書ではさまざまな角度から解説されていくのですが、もう一箇所、僕にとって強烈だったのは次の箇所です。

自己効力(Self-Efficacy)は、ものごとを達成する上で重要な能力で、自己責任という西欧的価値観から生まれた考え方に基づいている。学習心理学者であるパンデューラは、人間の思考・感情・行動は、その人の持つ自己の能力への確信の程度(自己効力感)によって左右されているという自己効力理論を提唱している。

(中略)

自己効力感は、人が何をするか、その際にどの程度努力するかを決定する要因で、その高低によってその人の最終的な到達レベルが左右される。

常に成果を上げている人、大胆に物事に挑戦する人、人付き合いのいい人、くよくよ思い悩まない人、変革を推し進める人、革新的な技術を生み出す人、そういう人々は、自分の能力に対する楽観的な見方をしている。そのため、自分の人生にかかわるさまざまな出来事に影響を及ぼすことができるという信念を常に堅持している。

そういう人々は、高い人生の目標を設定し、自分のやっていることに価値があると考え、失敗を恐れず、困難に出会ってもそれを試練と受け止め長期間にわたってたゆまぬ努力を続ける。その結果、そうした人々は、自らの置かれた現実を変化させ、革新的な成果をものにすることができる。

これは、情報を得るための努力やその成果について、自己効力感の高い人ほど求める情報に到達し、それを活用できる、ということを説明しようとしている部分なのですが、筆者はスポーツや進学や仕事上のプロジェクトなどを例に、自己効力感を高める重要性と、その方法について解説していきます。

自分はフルマラソンを走り抜くことができる、と信じている人は実際に走り抜くことができ、自分にはフルマラソンは無理だ、と考えている人は簡単にあきらめてしまう、というような具合です。この考え方には非常に納得がいきます。

よりよく生きるための情報探索スキル

筆者は「情報を探す行為=生きること」と主張していますから、情報探索のスキルを高めるための要因の一つである自己効力感についても、それを高めることがそのまま「よりよく生きること」であると考えているようで、著者が抱いている「情報」や「生きること」に対する深い愛情や情熱のようなものを垣間見ることができます。

本書の内容とは直接関係のないことかもしれませんが、僕は、深い愛情を持った研究者というのは、その研究成果によって人を感動させることができる、というようなことを感じました。正真正銘の名著だと思います。気になる方はぜひご一読を。「情報検索のスキル—未知の問題をどう解くか」(三輪 真木子 著)