パーソナライズド検索がもたらすSEOへの影響

検索のパーソナライゼーションが大きな潮流となりつつある昨今、検索各社のパーソナライズの方向性をまとめるとともに、今後のSEOのありかたなどについて考察します。今後SEOは、キーワードとの一致性だけを考慮するものから、より「検索する人:検索者」の文脈や状況を意識したコンテンツ作りへと変化していくでしょう。

パーソナライズド検索とは何か

パーソナライズド検索の目指すものは、検索者の好みや意向、または検索者の文脈や状況にあわせて、検索の都度、その検索者にとって最もふさわしい検索結果を返すことにあります。

2006年時点のWeb検索では、誰が検索しても、同じキーワードを使って検索する限りは同じ検索結果が返るために、ユーザーによって異なる検索のニーズに応えるものとはなっていません。こうした現状を受け、パーソナライズド検索に関する数多くの試みがなされており、どれも将来の検索の姿を予見させてくれるものばかりです。

パーソナライズド検索の将来像が見えてくるようになるにつれて、SEOの将来像もまた変化していくことになります。検索エンジンがユーザーごとに最適な検索結果を返すのであれば、「キーワード何々で何番目」といったような、誰もが同じ検索結果を見ていることを前提としたSEOは、その前提からして崩れてしまうのです。

では検索のパーソナライズでSEOは消えてしまうのでしょうか? 検索のパーソナライズとSEOの関係について、記事「楽天オークションの匿名エスクロー、「ぜひ様子を見たい」ヤフー井上社長 | INTERNET Watch」から少し引用してみます。

検索エンジンがこのような行為に騙されてしまう現状について井上社長は「スパムSEOとはおそらく、永遠の追いかけっこになる」とする一方で、検索結果表示については、過去の検索結果やユーザーの行動を検索エンジンが把握することで特定の人にとってベストな検索結果を出せるようになる“パーソナライズ”が今後重要になると強調した。

大蘿氏も、もうWebページのリンクを解析して検索結果の表示順を決める時代でもないと指摘。また、パーソナライズによって表示順を決める要素がユーザーごとに異なれば、「スパムSEOもやりようがない」として、スパムSEO対策としても有効であると説明した。

上記の引用のように、検索結果の順位を決める要素がユーザーごとに異なるようなことになれば、確かに、コンテクストを無視してキーワードとの一致性のみを高めようとするスパム的なSEOは無効になりそうです。

Yahoo! Japan(YST)の取り組み

Yahoo! がどのような方法で検索結果をパーソナライズしようとしているのかを少しみてみましょう。わりと最近「ITmedia News:ヤフーが「CGM化の大号令」 MySpaceは「連携も」 (1/2)」という記事がありました。

さらに、友人関係マップを、コンテンツフィルタリングツールの1つにする。例えばブログ検索で、友人がよく閲覧しているブログを検索結果の上位に持ってくる——といった活用法が考えられる。

「CGMを“使い物になるクオリティーの並べ方”にしたい。Googleが成功したのも、過去のロボット検索にはない並べ方にしたから。CGMを放っておくとどうなるかという実例が日本にはある。そのような例にならないようにすることが、CGMを多くの人に役立ててもらうために重要」

Yahoo!IDのアクティブユーザーは1700万人を超え、Yahoo!JAPAN全体の月間ページビューは300億以上。ユーザーの行動把握のためのデータには事欠かない。検索結果ランキングやユーザーのアクセス履歴などもCGMととらえ「ありとあらゆる手段で活用したい」という。

この記事での主眼はCGMの活用ですが、Yahoo! サービスの中でも、ブログや知恵袋のようなよくいわれている典型的なCGMだけでなく、友人関係マップ(Yahoo! Days のデータ)や各種のアクセス履歴など、Yahoo! ID を使ってログインした状態で行われるあらゆる行動の記録もCGMととらえて、ありとあらゆる手段で活用したい、としています。

その上で、CGMを検索結果などのパーソナライズに(もちろん行動ターゲティング広告にも)活用したい、といった趣旨です。たしかにこうしたデータは、コンテンツのフィルタとして使えそうですし、それがうまく機能すれば、検索結果はより利用者個人の状況や嗜好を強く反映したものになるでしょう。

そうなると確かに、検索結果のパーソナライズは、キーワードとの一致性のみに特化したSEOに影響がありそうです。

なおユーザーの行動履歴の追跡とそのデータの活用についてはYahoo!だけの話ではなく、こうしたデータの利用に関しては個人情報保護の観点からの疑問もありますが、このエントリではそこには触れずに、検索結果のパーソナライズという観点だけに絞って話を進めます。

Googleの取り組み

Yahoo! 以外の検索エンジンのパーソナライズの現状はどうでしょうか。Google については、現在すでにパーソナライズド検索が稼働中です。これについては、少し古い記事ですが「使うほどに賢くなる日本語の「Googleパーソナライズド検索」開始 – CNET Japan」というものがあります。

グーグルは11月11日、日本語の「Googleパーソナライズド検索」(ベータ版)の提供を開始した。Googleアカウントを持っていれば誰でも無料で利用できる。

パーソナライズド検索は、ユーザーが検索した履歴を表示、管理、学習することで、ユーザーの嗜好に合わせ、より求めている検索結果であるほど上位に表示される。たとえば「アップル」を検索した場合に、ユーザーの過去の履歴から果物を求めているのか、コンピュータを求めているのか判断して、どちらかを優先的に表示させるというわけだ。

また、検索履歴は時系列で表示したり、特定の日の検索頻度を表示したりできる。履歴の記録は、Googleアカウントにログインしている状態でウェブ、イメージ、ニュース検索した場合だけだ。

この記事の書かれたのは2005年で、この時点では、ユーザーの検索履歴から学習する、というだけのものでしかありませんが、ざっくり見ると、これもまた Yahoo! と同様に、ユーザーの行動履歴を反映させて検索結果をパーソナライズしようというものです。

ここでもやはり、単にキーワードと一致するページを表示するだけというところから、ユーザーの検索履歴というコンテクストとの一致が求められてきます。こうなると、検索キーワードが同じでも、その検索結果はユーザーの数だけ存在することになり、一定のアルゴリズムに最適化しようとするようなSEOにとっては脅威となりそうです。

Microsoft(Live Search)の取り組み

また、Yahoo! と Google が、共にユーザーの行動履歴を活用して検索結果をパーソナライズしようとしているのに対して、Live Search(追記:現在はBingに移行)を運営する Microsoft は少し違ったアプローチで検索結果をパーソナライズする手段を提供しています。

Microsoftの取り組みについては記事「マイクロソフト、「User in Control」でカスタマイズできる検索エンジン「Live Search」:RBB NAVi」に詳しいので引用しましょう。

「Live Search検索マクロ」では、マクロを使うことで検索アルゴリズムのカスタマイズが可能となる。たとえば、釣り情報だけを検索できるサーチエンジン、料理レシピ専用サーチエンジン、IT系ニュースサイトを優先的に検索するサーチエンジンなど、自分好みの検索をワンボタンで行えるようになる。

こうして作成したマクロを公開することもできるようになっている。マクロ作成は、検索対象サイトを指定するだけの「初級」と、演算子を駆使して詳細なマクロを作成する「上級」の2モードが用意されている。こうして作ったマクロは、検索テストを行い結果を比較しながら調整可能となっている。

出来上がったマクロを登録すれば、それをURLとして指定して、いつでも呼び出せるようになる。デモとして、ポッドキャストを配信しているサイトを優先的に検索するサーチエンジンが紹介された。このマクロを使うと、たとえば「TBS」と検索しても、TBS公式サイトではなく、ポッドキャストの配布ページが優先して表示された。

Microsoft のアプローチでは、ユーザーが漫然と使うだけで検索エンジンが勝手に学習していくというようなものではなく、ユーザー自身が積極的にカスタマイズして使用する必要があります。この意味では一見するとYahoo! や Google よりも不親切に思えるかもしれません。

しかし、自分で検索結果をカスタマイズするだけでなく、他のユーザーがカスタマイズしたものを使用する、という方法も用意されているために、例えば、状況や検索したいコンテクストにあわせてアルゴリズムを使い分ける、といった使用法も考えることができ、使ってみれば便利そうです。

何よりも、行動履歴や検索履歴のような個人情報を渡すことなく、自分の意志で検索結果をカスタマイズできるというのは魅力的です。Live.com のコンセプトは「User in Control」だそうですが、まさにその通り、検索エンジンの側の用意したものをただ使わされるのではなく、自分でコントロールしながら使っていける、というわけです。

パーソナライズド時代のSEO

ここまでみてきたような検索結果のパーソナライゼイションやカスタマイズが今後より一層すすんでいくと、確かに、単にキーワードとの一致性だけで検索結果の上位に露出することは難しくなりそうです。検索結果のパーソナライズによって、検索キーワードとの一致性だけを高めていくようなSEOが難しくなると考えられる理由は以下のようなものです。

  • 一人一人の検索者の嗜好に合わせて検索結果が変わるため、単一のアルゴリズムに最適化するだけで上位表示が得られるとは限らない。かといって、すべてのユーザーに個別に最適化することは不可能
  • 検索キーワードとの一致性だけならページ制作者にもコントロールの余地があるが、検索者のコンテクストとの一致まではページ制作者にはコントロールできない

しかし、これだけでSEOが早晩消えてしまうと考えるのは早計すぎるでしょう。確かに、キーワードとの一致性だけを追いかけるSEOはあまり意味を持たなくなるかもしれません。しかし、検索結果のパーソナライゼイションがすすめば、それによって検索結果における露出が高まる機会を得る場合も考えられるからです。

例えば、SNSなどから得たユーザー同士のつながりが検索結果に反映される場合、少数でもサイトに熱心な支持者がいれば、それらの支持者たちと同じ社会的コミュニティに属する他の人々の検索結果にも反映され、コミュニティ単位で特定の人々の検索結果に露出する機会が高まるかもしれません。これはターゲティングという意味では今まで以上の価値がありそうです。

別の例では、従来は同音異義の他のキーワードに紛れて検索結果の上位に表示されにくかったキーワードでも、ニーズのある層にリーチできるようになるかもしれません。例えば、アムステルダムのサッカークラブチームの「Ajax」や、イギリスのレコードレーベルの「Apple」や、有色人種の学生のためのインターンシップや奨学金を提供する「SEO」などは、同じ言葉でありながらより人気のある別の意味があったために検索結果においては不利でしたが、今後はより適切なユーザーに対して確実に露出するようになるかもしれません。

また、パーソナライズされた検索結果においても、それがリストの形で提供される限り、必ず表示順位は存在します。その表示順位を決める大きな要因は検索者の嗜好かもしれませんし、検索時のコンテクストかもしれませんが、それがどのようなものであれ、どれだけ一致しているか、ということが問われ、何らかの形で序列がつけられます。

序列がある限り必ず、今後もキーワードとの一致性は問われ続けるでしょう。この意味では、何らかの要素に対してどれだけ一致しているか、ということで序列がつけられるのは従来通りです。その要素とは以下のようなものが考えられ、僕たちは今後、これらへの一致性を強く意識してコンテンツを作っていく必要があるでしょう。

  • 検索者自身の嗜好や行動との一致性
  • 検索者と同じコミュニティに属する他のユーザーの嗜好や行動との一致性
  • 検索者が検索する時点でのコンテクストとの一致性

検索のパーソナライゼーションがもたらす変化は、キーワードとの一致だけでなく、上記のようなところもまた同時に問われていく、というだけの変化であり、その意味では最適化の余地は残されます。僕たちが今やるべきことは、(受けるものを作り出すという意味での)マーケティングや、それをより広く伝えるためのSMOといったことに近付いていくのではないでしょうか。

僕たちは今後も、検索結果での露出を高めるための努力を続けていくことになるでしょう。しかしそれは、キーワードとコンテンツの一致性だけを求める従来のSEOとは違って、より「検索する人」に寄り添う形で、彼らの文脈や状況を意識したコンテンツ作りという方向へ向かっていくものと、僕は考えています。