Web制作者にとってマーケティングを学ぶことはもはや必要不可欠といっていい状況ですが、もともとそうした知識がなく新たに学ぶという場合、入門書としてちょうどいい本はなかなか見つかりません。教科書的なものは難解で無味乾燥なものが多い一方、読みやすいものはセールスのテクニックを解説する表面的なものが多いためです。
マーケティングの知識は欠かせない
もう昔のことで今から考えれば隔世の感がありますが、僕は1990年代も終わりの頃、紙媒体におけるデザインの基礎(構図とか配色とかフォントとか)と、インターネットにまつわる技術を学んだだけという頼りない状態で、Web制作の仕事を始めました。そんな状態でしたから、仕事を進めていく中でマーケティングに関する知識不足という壁に突き当たったのは当然の成り行きです。
サイトの企画や戦略を構築するためにはマーケティングの基礎知識くらいは必須のことで、これなしにウェブサイトのプロデュースなどはあり得ず、僕はあわてて勉強を始めました。僕がマーケティングの勉強を始めたのは、Web制作の仕事を始めてから1年以上が経過した、2000年頃のこととです。この頃の焦りというのは、いま思いだしても冷や汗が出るほどです。
ぴったりの本はなかなか見つからない
僕が知りたかったことは、クライアントのウェブサイトの方向性や企画を決定するために必要になるマーケティングの考え方でした。具体的には、下のリストのような能力を欲していました。どれも基本的なことに思え、実際に基本的なことですが、これらを真に理解させてくれる本にはなかなか巡り会うことができませんでした。
- 業界の動向や競合分析など、クライアントの業界を理解する能力
- クライアントが現在とっているオフラインの戦略を理解する能力
- オンラインでの展開をどう位置づけ、どう展開していくかを考える能力
たくさんの本を手にとりましたが、マーケティングに関連する本というのは、基礎知識からしっかり教えてくれるようなものは教科書的で無味乾燥、しかも難解なものが多く、一方で読みやすい本はといえば小手先のセールステクニックを扱うような本ばかりで、ぴったりくるような本がないというかなり困った状況にありました。この状況は今もそう変わりません。
例えば「コトラーのマーケティング入門」などは入門者向けの名著としてよく知られており、初読で理解できるくらいの能力が僕にあれば、きっとこの本が決定版になったことでしょう。しかしこの本は僕にとってはあまりにも難解で分量も多く、教科書的で面白みもなく、結果として、読了したのはずっと後のことになってしまいました。
これらの本が役に立ったと言えるのは、主に中小零細企業の社長さんであるクライアントと会話する際の「共通の言語」を持つことができたことくらい(これはこれでとても重要ですが)で、僕が知りたかったことのほとんどは(僕の理解力不足から)結局わからずじまいでした。
実務者向けのマーケティング本
そして出会ったのが、「コトラーの戦略的マーケティング — いかに市場を創造し、攻略し、支配するか」です。この本は表紙や帯を見ても入門書の趣はありませんが、それは研究者や学生を対象にした教科書的なものではないためです。
この本は、マーケティングの新しい動向をふまえて企業の管理職向けに書き下ろされたもので、入門書としての機能は果たすのですが、教科書としての体裁ではなく、実用書のような構成になっています。実践をふまえた実務家向けの内容である上に、基礎的な考え方もきちんと解説されており、これこそまさに僕が求めていた本でした。
この本を読むことは発見の連続であり、その後マーケティングを理解していくための基礎として大いに役立ちました。僕はこの本との出会いがあったからこそ、その後に出会った様々なメソッドを取り入れつつも、基本を見失うことなく進むことができたのだと思います。
そして、それまでは漠然とした直感のようなものだった「ウェブ制作者はマーケティングの知見を持たなければならない」ということは確信に変わり、僕の仕事が生み出す成果も、その後の勉強の方向性も、すっかり一変してしまったのです。思い出深く、今も時々開いてみる一冊です。「コトラーの戦略的マーケティング — いかに市場を創造し、攻略し、支配するか」おすすめです。