情報デザインは本来、誰にとっても身近なものです。メールやプレゼン資料の作成から、本棚や机やキッチンの整理まで、私たちが情報を整理するシーンは幅広くあります。そうした日常のシーンにも情報デザインという視点を与えることで、私たちの情報に対する理解は深まります。
この分野の本は難解なものが多い
インフォメーション・アーキテクトとか情報デザインなどの分野は、複雑でわかりにくいものをわかりやすいものへと編集する、といったことがテーマですから、できればそれ自体がわかりやすいものであってほしいものです。しかし残念ながらこのテーマの専門書は極端に難しいものが多くて実にくたびれます。
例えば「Web情報アーキテクチャ—最適なサイト構築のための論理的アプローチ」などは、その種の難しい書籍の代表格で、良書なのは間違いないのですが、難しすぎるのとボリュームが多すぎるのとで、ただ読むだけでも苦労します(加えてとても高価です)。
わかりやすく整理された軽めの一冊
そこで、ボリュームが少なく、難しくなく、しかも安く、一気に読めて要点がきちんと頭に入る良書を紹介したいと思います。「情報デザイン入門—インターネット時代の表現術」(渡辺保史著)です。
タイトルには「インターネット時代の」と入っていますが、内容は必ずしもインターネットに限ったものではありません。情報デザイン全般の中で、その役割が顕著ないくつかの分野を例にしながら説明が進んでいきます。これらの例が非常に直感的でわかりやすく、まさに本書自体が「よくデザインされた情報」であると感じます。
誰もが情報デザイナーである
本書の冒頭で、著者は以下のようなことを述べ、僕たちの周囲にあるもののほとんどはデザインされた情報であり、さらに私たち自身も常に情報をデザインしている、といいます。したがって我々全員が情報デザイナーである、と。
人間が生み出す人工物には、何かの情報が必ず含まれている。テレビや新聞を通して大量に配信される情報、電話や電子メールなどのコミュニケーション手段を通じて交わされるような情報のような、メディアの「コンテンツ(中身)」ばかりではない。家電製品や自動車、自動販売機といった機械・道具と向き合うには、使い方・手順という情報が切っても切り離せない。
中略
こうしたさまざまな「かたち」をまとった情報を、私たちはこの身体を使って読み取りながら日々を過ごしている。そして私たちは、これらの情報デザインに取り囲まれながら、ただそれらを「使う」だけではなく、自ら情報をデザインしてもいる。
ごく身近なところでは、本棚やクロゼットを整理したり、友人に一本の電子メールを書くときにさえ、私たちは知らず知らずのうちに情報をデザインしている。それが仕事でパソコンを使って企画書やプレゼンテーションの資料を作ったり、個人の趣味でウェブページをつくるとなると、もはや「プロ」の情報デザイナーと同じ土俵に立たされている、といってもいい。
同じように本から得た情報であっても、それを単に記憶のどこかにとどめているだけの状態と、常にその情報を活用し、そこから新たな視座が得られるような状態では、まったく意味が違います。この本を読んでからの僕は、著者の視点が乗り移ったかのように、見るもの聞くもの触れるもののすべてについて、
- その情報がこのようにデザインされている理由は何か
- そのデザインされた情報を利用者は正しく受け取れているか
- その情報デザインに不備や改良すべき点はないか
といったことを気にするようになりました。何を見るにしても「情報デザイン」を気にかけるようになったのです。また、自分が何らかの情報を発信する際にも、その構造やデザインについて配慮するようになりました。
情報デザインという視点を獲得する
自分を取り巻く世界のすべてや、自分が発信する情報のすべてについて、「情報デザイン」という視点を与えてくれたこの本は、まさに素晴らしいものだと思います。
本書は薄く軽いもので、深いな内容についてはそれほど充実しているとは言えませんが、しかし、その内容は読者の脳に焼き付き、読者の世界を変え、読者の行動を変えてしまう力があります。
これはまさに、本書自体が、読者にとってわかりやすい例を元に、情報デザインの意味や目的、そしてその具体的な手法を教えてくれるために「情報がデザインされている」ということだと思うのです。まさにタイトル通り「情報デザイン入門」に最適な一冊です。