Webにおける情報探索行動の変化と情報発信者の対応

Webにおける情報探索行動は従来、Web検索を中心とした情報問題解決が主流でした。このため情報発信者は、SEOだけに注力することで大きなトラフィックを獲得できていました。しかし環境モニタリング型の情報探索行動が台頭してきた現在では、それに対応した新たな施策が必要になってきました。

認知科学における「情報」の定義

認知科学の立場では、「情報」とは受け手の知識に変化を与えるもののことをいうそうです。

人は情報によって知識を変化させ、その変化した知識を使うことによって、様々な判断をしたり、他者と社交や交渉などのコミュニケーションをとったり、仕事をしたりします。そして、より安全に賢くそれらをこなすために、人はさらに情報を探索し、さらなる知識の変化を求めます。

この意味で、僕たちの生涯は情報探索の連続であり、よりよい情報探索はよりよい人生をもたらすといってもよいかもしれません。

情報探索行動の種類

情報を探索する行為、つまり情報探索行動について「情報検索のスキル—未知の問題をどう解くか」(三輪 真木子 著)によると、情報探索行動には以下の三種類の様式があるそうです。

  • はっきりとした目的があって情報を探す場合の「情報問題解決」
  • 新聞や雑誌やテレビなどから無意識に情報を取捨選択する「環境モニタリング」
  • 意識して探していたわけではないのに役立つ情報に偶然出会う「情報との遭遇」

僕たちはこうした情報探索行動を繰り返しながら学習し、知識を身につけ、その身につけた知識を使って、様々な問題を解決したり、再び情報を探索したりしている、というわけです。

現在の僕たちの情報探索行動は、Webを中心としたものが主になりつつあるわけですが、Web上での情報探索行動を、先に挙げた三種類の様式に当てはめてみると、ちょっと面白い構図が見えてきます。

1. 情報問題解決
キーワード検索を利用した検索
2. 環境モニタリング
ニュースサイトの閲覧やRSSの購読やSNSのチェック
3. 情報との遭遇
前の2項の情報探索行動や、漫然としたネットサーフの際に、意識していたわけでもないのに偶然遭遇する

Web上の情報探索のいままでとこれから

僕たちはWebを、主に情報問題解決の主要な手段として活用してきました。調べたい事柄を表すキーワードを考えて検索し、必要な情報が見つからなければキーワードを再検討して検索したり、見つかった情報を元に新たなキーワードで検索したり、といったことを繰り返して、知識を強化していたわけです。この使い方は今も、Webにおける主要な情報探索行動の一つです。

しかし現在では、情報問題解決としての活用以外に、環境モニタリングにも、大いにWebが活用されています。気に入ったニュースやブログをRSSリーダーに登録して定期的に巡回したり、SNSを使って仲間内での話題を共有したり、といったことは、RSSや各種のソーシャルサービスが普及してきたことによって可能となった環境モニタリング型の情報探索行動です。

僕個人のWeb上における情報探索行動は、検索を中心とした問題解決のための情報探索行動にあたる頻度や時間にはここ数年変化はないものの、環境モニタリングのための情報探索行動にあたる頻度や時間は、ここ数年でかなり増大したように思います。

これは、従来テレビや雑誌を中心としていた情報モニタリングが、ほとんどWeb上での行動に移行したこととも関係がありそうです。つまり僕は、ほとんどテレビや雑誌を見なくなってしまったのです。こうした情報探索行動の変化は、かつて主要な検索の場所が図書館からWeb検索へと移行したのと似ています。

環境モニタリング型の台頭

このように、情報探索行動に対してWebが果たす役割は、「情報問題解決」だけでなく「環境モニタリング」へと範囲を広げているわけですが、こうした変化は情報探索者としての僕たちに影響を与えるだけでは終わりません。僕たちは情報の探索者であると同時に、情報の発信者でもあるのです。

僕たちが発信する情報を、うまく探索者たちとマッチングさせるためには、情報の発信方法もまた変化させる必要があるかもしれないためです。

従来であれば、僕たちが発信する情報を探索者たちとマッチングする手段は、ほとんど「広告」と「検索」に限られており、中でも情報問題解決のために情報を探索する人々と情報をマッチングさせる策としてのSEOには絶大な効果がありました。

しかしそこで行われている情報探索行動は「情報問題解決」が中心であり、「環境モニタリング」のトラフィックは別の場所を中心に生み出されているのです。

環境モニタリング型への対応

環境モニタリング型の情報探索行動に対する情報のマッチングは現在のところ、RSSリーダーやソーシャルサービスが受け持っています。情報発信者としての僕たちは、こうした経路を使って、僕たちが発信する情報と情報探索者とをマッチングしていくような方策についても探っていかなければならない時期に差しかかっているように思います。

従来の情報問題解決型の情報探索行動だけでなく、環境モニタリング型の情報探索行動にも対応するように情報発信の経路を最適化していくことで、サイトへのトラフィックを増大させることが可能であることはほぼ間違いがないでしょう。具体的には、以下のような施策が考えられます。

もちろん、これら以外にも様々な施策が考えられるでしょうが、いずれにせよ、僕たち情報発信者は、ユーザーの様々な情報探索行動にマッチした情報発信の形を模索していく必要があります。Webの使われ方が変化していくにつれて、僕たちのアプローチも変化していかなければならないのです。