ウェブデザインにおける各種の制約は、単なる害悪ではなく、詩人にとっての音韻や作曲家にとっての音階のように、創造性をはぐくむ枠組みのようなものです。なぜその制約があるのか、なぜその制約に従う必要があるのか、ということを考えることによって、制約から創造性を生み出すことができるようになります。

ウェブデザインにおける制約

戦うWebデザイン—制約は創造性をはぐくむウェブ制作者たちの中には、彼らが受けている技術的な制約について、それは芸術性や創造性を損なう害悪だと考える人が多いようです。ここに、Webデザインの考え方を示すクラシックとも呼べる本があります。「戦うWebデザイン—制約は創造性をはぐくむ」(ジェフリー・ビーン著)です。

この本は日本語訳の初版が2001年6月と古い本であり、当時はブラウザの互換性や回線速度、端末のハード的な制限など、今と比べればWebデザイナーにとってはるかに制約が多かった時代に書かれたものです。僕自身もまた、Webデザインにまつわる制約の多さに辟易していました。

当時は4.0世代のブラウザで同じ見栄えを再現するために、テーブルを入れ子にした複雑なHTMLコードを書き、画像を多用ししていました。CSSは一部に使用することがあっても、それは文字の装飾や行間を調整する程度のもので、レイアウトはテーブルとスペーサーを使う、といった具合です。容量の軽量化、といえば、主に画像の軽量化のことを指していました。

制約があるからこその創造性

詩人は音韻の制約を受け、作曲家は音階の制約を受けていますが、その制約を、窮屈なものだとか、害悪だとか思う人はそれほど多くないと思います。音韻は制約であると同時に詩人の想像力を刺激するものでもあり、音韻があるからこそ詩人は多くの人が美しいと感じる詩を歌い上げることができます。音楽家にとっての音階も同様のものです。

この本では、ウェブデザインについても「制約があるからこそ創造性が発揮される」と主張します。この考え方は僕にとって革命的なものでした。制約をただ窮屈なだけの害悪と受け止めるのではなく、「なぜその制約があるのか」「なぜその制約に従う必要があるのか」といったことを考えさせ、僕が自発的に制約から創造性を生み出すようにし向けたのです。

今でこそ訳知り顔で当然のように語っている「文書の構造化」や「構造と表現の分離」、「Web標準技術」などについての基本的な考えは、実はこの本がきっかけを与えてくれたものです。そのほか「Webとは何であるか」「文書とは何か」「構造とは」「デザインとは」「インターフェースとは」「ユーザビリティとは」「情報アーキテクチャとは」といった具合で、今につながる重要なことのほとんどすべてはこの本が教えてくれました。

当時の僕がまったく違う常識、まったく違う考え方を持っていたことからすれば、そんな僕を「宗教的な改宗」「思想的な転向」に近いような形で動かしてしまったこの本の力は、まさに革命的、ただごとではないものでした。この本は「制約が創造性をはぐくむ」というたった一つの思想をもって、僕を「改宗」「転向」させたのです。

ウェブデザインの本質に迫る思想

僕が前段の冒頭で述べた「詩人にとっての音韻」や「音楽家にとっての音階」の例えは、この本に載っていたものではなく、僕が独自に考えた比喩です。しかし僕は、この比喩によって、著者が言いたかったことのうちの一面を言い当てていると確信しています。

もしこのエントリを読んでいるあなたが、「Web標準技術」や「構造化」、「アクセシビリティ」といったテーマについて、その本質を知りたいと考えているなら、この本の記述の根底に流れる思想はきっとあなたの助けになります(驚くべきことに、細かなテクニックについてもまだまだ実用的なものが数多くありますが、これは重要ではないかもしれません)。「戦うWebデザイン—制約は創造性をはぐくむ」(ジェフリー・ビーン著)、すべての悩めるWebデザイナーにお勧めします。