企業が自社サイトについて抱く関心の中心が「いかに制作するか」だったのはもう過去のこと。今は「いかに運用するか」が主要な関心事です。ならば私たちの仕事も、制作から運用サポートへと舵を切るべきではないでしょうか? 僕がその選択をした理由、そして軌道に乗せた方法をお伝えします。

制作屋としての僕のこれまで

僕はわずか1年足らずの独学ののち、1999年にウェブデザイナーとして独立しました。最初はFLASHを主に使っていました。今で言うSEOに出会い、それを制作業務に取り入れるようになったのは2000年頃のことです。当時は SEO という呼び方はせず、Web Positioning とか Search Engine Placement などと言うのが主流で、SEOという言葉は欧米でもまだ一般的ではありませんでした。

2001年頃には「SEOを強く意識したサイトリニューアル」という業務が定着し、その後2013年まで僕の中心的な業務として続きました。それまで検索者を意識していなかったか、または意識していたとしても方向のおかしかったサイトをリニューアルし、検索者にとって使い勝手のいいものに作りかえる、という仕事です。とはいえごく初期には需要もほとんどありませんでした。

2002年は僕にとっては大きな転換の年でした。あなたがいまご覧のこのサイトを立ち上げたのがこの年の春。公開から間もなく膨大なアクセスを集めるようになりました。その秋には日本で最初のSEO書籍を出版し、これもとてもよく売れました。それまでほとんど知名度のなかったSEOという言葉は、これらをきっかけに一般的に普及していくこととなります。需要も伸びました。

2004年頃には、現在の業務の元となるコンサルティングにも着手するようになりましたが、あくまでそれは従物のようなもので、中心的な業務は制作のままでした。その認識はその後も長く変わらず、僕のウェブの業界におけるおよそ15年のキャリアのうち、14年は制作を中心に手間賃を得るというモデルで働いてきたことになります。

2013年、僕は主業務を制作からコンサルティングへと大きく転換しました。最初のコンサルティング業務を引き受けてから10年近くも経って、やっとそれを本業にしたという形です。この間、数々の失敗や、無駄な試行錯誤、そして躊躇がありました。なかなか思い切った転換はできなかったのです。

潜在的にはみんなコンサルタント

この記事を読んでいる皆さんの中には、同僚やクライアントから次のような質問を受ける人も多いのではないかと思います。場合によったら、友人や家族、同業者からもこうした質問を受けている人もいるでしょう。

  • どうしたらコンバージョンが上がる?
  • どんなコンテンツを作ればいい?
  • CMSはどれを選べばいい?
  • SNSはどうやったら反響が取れる?
  • 広告の効果はどうすれば上がる?

質問は一例にすぎませんが、これらはサイトの運用に関する質問です。そして、この種の質問を受けるということは、本質的にはコンサルティングです。質問され、質問者と一緒に課題や問題について考え、解決策を導くというプロセスは、コンサルティングそのものだからです。

質問者は、そうしたプロセスをあなたと共に実施していくことに価値があると考えています。だからこそあなたに相談するのです。ではあなた自身は、その価値を認識できているでしょうか? もしかしたら、その価値こそが、あなたの価値の本質かもしれないことに気付いているでしょうか?

僕はずっと、手間賃で働く作業者であると自分自身を定義してきました。制作の仕事をしている人の多くが同様だと思います。より質の高い作業、より効率の良い作業、より難易度の高い作業、より先進的な作業。そうしたものを追い求めることによって、より多くの作業をこなし、より多くの手間賃をもらう、という考えです。

この考えによって、僕は自分の仕事の価値の本質的な部分を見誤り、クライアントが持つニーズの本質的な部分を見誤り、主業務をコンサルティングへと移行させる時期を大幅に遅らせてしまいまいました。自分が提供できる価値も、自分に期待されている価値も、大きく誤認していたというわけです。

手間仕事から相談への変化

制作の仕事というのは、大まかには手間賃仕事です。現状の検証に始まり、コンセプトの修正やサイト全体の構造の設計、コンテンツの設計、ビジュアルの設計、そして実装、また検証と、あらゆることに手間がかかり、その手間の対価として報酬を受け取ります。

以前はそれで何も問題ありませんでした。それは極めて正当性なものです。クライアントもまた、そうした僕の手間仕事に期待していましたし、僕はそれを提供し、対価を得ていました。しかしこれですべてがうまくいっていたのは、2004年頃からのブログブーム以前の話です。

ブログブームや、その直後からのCMSの普及によって、サイトの課題の中心はゆっくりと変化していきました。それ以前の「どう作りどう見せるか」という断続的なものから「日々のコンテンツの追加や調整」というような連続的なものへと、中心的な課題が変化していったのです。言い換えれば、制作から運用への変化、とも言えるでしょう。

CMSが普及したことにより、日々の更新はクライアント自身が主体性をもって実施するようになりました。それまでリニューアルごとに僕を中心として回していたPDCAサイクルが、クライアントを中心に日々回されるようになりました。結果、トラフィックはぐんぐん増え、成果も上がります。

こうした変化にともなって、クライアントが僕に期待する役割は、作業者としてのそれから、運用上の相談相手としてのそれへと変化していきました。戦略的なアドバイスや、中長期の方向付けといった、つまりはコンサルティングです。

僕自身は制作者ですが、同時にこのサイトのウェブマスターでもあります。多数のクライアントの相談にも乗っていて、知識だけでなく経験や実績も豊富です。とりわけこのサイトの運用状況を見れば、僕のウェブマスターとしての実力は丸見えです。クライアントは信頼して僕に相談を持ちかけ、その信頼はクライアントの結果につながりました。

それは僕にとっては逆風だった

多くのクライアントのサイトがどんどん成長していくことは素晴らしいことです。しかしその一方で、それは僕にとっては成功ではありませんでした。先述したとおり僕は自分自身を作業者と定義していて、そのため作業の手間賃しか受け取っていなかったことが、主に収入面で自分の首を絞めていったのです。問題は大まかに3点あり、それらは徐々に進行しました。

相談は手間賃にならないこと
運用に関する相談を求められることは増えていったものの、相談は手間賃が発生しない。仕事の時間に占める相談の割合が高くなればなるほど、僕の売上げは下がっていった
更新費用が消滅したこと
CMSの普及によって内製化が加速し、結果としては細かな更新の手間賃収入は減っていき、ついには消滅した
手間賃の単価が下がったこと
たまのリニューアル案件でも、作業の標準化や効率化によって大幅に作業時間が短縮し、1件のクライアントからもらえる手間賃は減った。さらには若い新規参入者の殺到の影響を受け、時間単価にも下降圧力が働いた

最も影響が大きかったのは1つ目の「相談は手間賃にならない」という部分でした。自分自身を作業者と定義していたこともあり、また長い付き合いの中でずっと無料で相談に応じてきたクライアントに対して急に「来月から相談は有料にします」のようなことを言うこともできず、売上げは下がる一方でした。

ついにはリニューアルの案件がないときも増え、自分のサイトからの広告収入と、セミナーや原稿執筆などといった、およそ制作者の本業とは言えないようなものが収入の柱になるほど収入を落としました。こうしたことも、個別に見れば良かったこともないではありませんが、ともかく収入を大きく減らしたのは失敗としか言いようがありません。

サイトの運用に関するニーズを考える

時代は変わりました。変化の早いこの業界において、10年以上も前と同じやり方がずっと通用し続けるはずがありません。クライアントが僕に期待するものもすっかり変わりました。そうした変化に合わせて、僕の仕事のやり方も変えなければなりません。

僕がウェブ関連の業において近く需要が高まると考えている職種は、企業内のウェブマスターです。サイト運用の内製化の流れはこのまま加速し続けると思われますが、現状のところ、専任のウェブマスターを抱えている企業というのは、ネット系ベンチャーやECを除けば、大手から中堅ほどの比較的大規模な企業に限られています。

企業内に専任のウェブマスターを置くという流れは、もちろん業種業態にもよるでしょうが、今後は中小規模の企業にまで広がっていく可能性は大きそうです。そうなれば、知識と経験を持ったウェブマスターの需要が一気に高まることは確実と言えるでしょう。この予想は、僕たちの将来を考える上で重要なヒントです。

一方、僕のクライアントに多い中小零細規模の企業の現状を見ると、経営者兼ウェブマスターという人が多く、経営者がその手持ち時間の過半をウェブマスターとして過ごしている例は珍しくありません。経営者が自らウェブマスターを兼任するというのは、それだけ事業におけるウェブサイト運用のインパクトが大きいということを示しています。

零細事業者に限って言えば、専任のウェブマスターを雇用する余裕はないでしょうから、現状のまま経営者がウェブマスターを兼任するという体制が続くかもしれません。しかしいずれにしても、各企業の事業にとって、店舗や工場の運営や、通常の営業活動と同様の事業上のウエイトを、サイトの運営もまた担っていくことは間違いないでしょう。

そこで簡単に「じゃあ僕はウェブマスターとしてどこかの企業に就職しよう」とはならないのが、10年以上もフリーランスを続けてきた人間の悲しさです。そもそも僕がフリーランスを志向した最大の理由は「自己雇用なら解雇されることがないから」というものだったほどで、僕は組織が極めて不得手です。就職してもすぐに解雇されてしまう。

コンサルタントは最適な答え、に見えた

コンサルタントなら今まで通り一人で動けます。そして何より、日頃から強く感じているニーズ「ウェブマスターは頼れる相談相手を欲しがっている」にも合致します。これまでの知識や経験も、もちろん生かすことができます。そして経験は今後も積み上がり、より強みを発揮するでしょう。

僕が志向するコンサルタントとは、何か華やかで格好いいものではなく、もちろんインチキ臭いだけのものでもなく、単に「中小企業の経営者兼ウェブマスターの良き相談相手になる」というものです。何も特別なものではなく、言ってみれば今までと同じようにこれからもクライアントの相談に乗る、というだけのことです。

そもそも僕は、例えば2002年から続けているこのサイトがいい例ですが、今までずっと、経営者兼ウェブマスターの育成を強く志向してきました。本を出したり雑誌に寄稿したりといった執筆活動や、中小企業経営者を対象にした各種のセミナーなどの講演活動も、いわば経営者兼ウェブマスターを育成する活動です。

ウェブマスターの仕事は孤独なものです。外部に相談相手が欲しい。そういうニーズは今後ますます高まっていくはずです。こう考えると、僕が今までやってきたさまざまな情報発信は、まさにコンサルティングを提供するための足がかりだったと思えてくるほどです。

僕は昨年「地方のウェブ制作会社が生き残るために」という記事を書き、大きな反響を得ました。最終的には同テーマの講演を全国10都市で開催したほどですから、この問題提起のインパクトは非常に大きかったものと思われます。この問題提起に対する僕自身の回答が、つまりはコンサルタントへの業態転換です。

業態転換の道程は平易ではなかった

今後はコンサルティングを主業務にしようと考えるところまでは簡単です。しかし難しかったのは、今までウェブ制作者として付き合ってきた従来のクライアントとの関係をどうするか、というところです。先述したように僕は、従来からのクライアントの相談には無料で応じてきました。これを簡単に有料化できるなら、始めから苦労しません。

先述したように、僕の都合で急に「来月から相談は有料にします」のようなことは言えません。これは単に気持ちの上で言いにくいという話ではなく、苦しいときにお世話になってきた義理もあれば、今まで一緒に成長してきたという人情もあってのことです。こうした昔からのクライアントとの関わりが、僕を悩ませ、業態転換を大きく遅らせました。

結論から言えばどうということもないのですが、結局僕は、従来のクライアントとの関係はそのままにしておくことにしました。従来通り相談は無料。大がかりなリニューアルをする機会があれば、そこまでの相談にかかったコストを上乗せする、というものです。

この決断は別の問題も引き起こしました。従来のクライアントがくれる紹介の案件を、結果としてはほとんどすべて断ることになってしまったのです。付き合いの長いクライアントからの紹介では、僕は「無料で何でも相談に乗ってくれる制作屋さん」という役割を期待されます。しかしそれでは僕は食えません。

本来なら、懇意にしているクライアントからの紹介案件というのは、制作者にとっては最も美味しいもののはずです。しかしそれは僕にとって、期待されている役割をこなせば収益が出ないというつらいものになってしまいました。これは案件を取り逃がすだけでなく、新しいコンサルの仕事はすべて新規に獲得しなければならないということでもあり、二重につらい状況です。

やってみれば新規開拓は面倒ではない

新しい仕事のやり方に合ったクライアントは、新しく開拓しなければなりません。僕はかなり長い間、新規の仕事は紹介のあるものに限って引き受けていたため、新規開拓からは遠ざかっていました。新しい仕事に合う新しいクライアントを新たに開拓するということについて、尻込みする気持ちが頭をもたげ、決断は鈍りました。

決意するまで時間はかかってしまったたものの、しかしいざ決意し、やってみれば、新規開拓はそう面倒なことでもありませんでした。幸いにも、僕はサイトを通じて潜在客や見込客を集め、それを転換することにかけては専門家です。集客と転換に関しては、僕はこれまで多くのサイトに関わり結果を出してきたことであり、まさに得意中の得意です。

いや、得意という言い方は適切ではありません。それは前提です。これまでそのノウハウや実装をクライアントに提供することで対価を得てきて、これからもそうしようとするのですから、自分のためにそれができなければ全部嘘でしょう。報酬をもらってウェブの制作をする者ならできて当然、すべての前提となるスキルです。

加えて、ウェブに関するコンサルタントの仕事は現在、非常に良い環境にあります。サイトの運用に関する相談の需要は高いものの、そうしたサービスを一定の水準で供給できる人はそう多くないためです。現状はアメブ■を根城にするコンサルタントの方々が大活躍のご様子ですが、そうしたものを目にするたびに、この業のやりやすさが再確認できます。

コンサルティングの需要はこれからさらに高まるでしょう。しかし、経験や実績のある供給者は、需要の盛り上がりほどは増えないでしょう。サイト運営に関わるノウハウは一朝一夕に身につくものではなく、対人のスキルも同時に必要になるため、若いウェブ制作者が大量に参入する現在のような形にはなりにくいと考えられるからです。

このように事業環境は整っており、個人的にも条件に恵まれています。新規の受付を始めたのは2013年の春と、つい最近のことですが、コンサルティングの仕事はすでに軌道に乗りました。決意してからの道のりは実にあっさりとしたものでした。あれこれと思い悩んで業態転換を遅らせてしまったことが、今となっては何よりも悔やまれます。

コンサルタントは悪くない選択肢

この記事は、先日2014年2月15日に開催されたイベント「ウェブコンサルタントになるには」大阪会場で僕が講演した内容をブログ用に書き起こしたものです。この話の対象は過去の僕と同じようにウェブ制作に携わっている人で、しかも作業よりも相談に時間が取られることが多くなってきている人々です。

制作屋の僕がコンサルになった理由

おそらくですが、そうした人はウェブ制作の業界歴が長い、経験豊富なベテランでしょう。そして、僕と同じように2000年以前からの経験があるような人のほとんどは、異業種から移ってきた人でしょう。僕もそうですが、異業種から移ってきた人は当時、将来ウェブに押し寄せるだろう大波をいち早く察知し、その波に乗るべく移ってきたはずです。

そしてこの業界にとどまった長い間にも、新しい潮流を見分けては、次のスキルを次々に身につけていき、時代に合わせて自分を変化させながら、そのとき来ている波に乗って、今まで生きのびてきたはずです。そうした環境と自分自身の変化は、これからも続いていくでしょう。

そして今、あなたがサイト運営についての相談をよく持ちかけられる状況にあるなら、あなたにはコンサルタントとしての需要があります。コンサルタントへの業態転換を頭に入れておいてもよいかもしれません。向き不向きもあることですから、誰にでもおすすめするというわけではありませんが、ともあれ選択肢の一つ程度には考えておいてもよいのではないでしょうか。