この記事は実話をもとにしてはいますが、物語を使ってSEOをわかりやすくというコンセプトで作られたフィクションです。実在の人物、団体、企業、事件等とは一切関係がありません。

業務用機械を販売するある会社の社長は、パソコンの画面を眺めて怒りに近い感情を覚えた。見ていたのはSNSのニュースフィードだった。そこにはある男の投稿が表示されていた。その男とは何回か顔を合わせたことはあるが、親しい付き合いはない。地元自治体が主催するウェブ活用の勉強会で知り合い、その後SNSでつながっているだけだ。

何が「私がこの目で選んだ最高の商品です、ぜひ一度お試しください」だ。何が「お友達の皆さんは無知な同業者に騙されないように注意してください」だ。臆面もなく自画自賛ばかり並べやがって、まったく鼻持ちならない。この男の投稿はいつもこんな調子だった。自画自賛と他社批判。もちろん反応する人は少ない。

この男が自慢げな投稿を繰り返しているのはSNSだけではない。彼は自分が経営する輸入衣料品店のサイトにブログを開設し、自社の取扱商品の品質の高さや希少さ、デザインの良さや着心地の快適さ、またはそれを選んできた自分自身の見識の高さや知識の豊富さを自慢しまくっていた。こちらもSNS同様、反響はない。

こんな文章ばかり垂れ流されたのでは、見せられるほうはたまったものではない。せめてSNSではこの男の投稿を非表示にしよう、と考えたところで、社長はあることに思い当たった。


社長はパソコンの画面を切り替え、自分の会社のホームページをくまなく見て回った。自分の会社のホームページをじっくり見るのは、最初に公開された6年前以来はじめてのことだ。小規模なホームページだが、見ているうちにだんだん恥ずかしく悲しい気分になってきた。

自社のホームページは、輸入衣料品店の男がSNSやブログで繰り返している投稿とそう変わりのないものだった。ホームページは自慢と売り込みに満ちていて、訪問者の視点を欠いている。たまたまこれを目にした訪問者がいたら、自分の会社のことしか考えない自己中心的な会社だという感想を持つだろう。

口を開けば自分の知識や仕事の自慢ばかり、というような人間を好ましく思う者はいない。誰だって自分以外の人間のことなど興味はない。人が強い関心を寄せるのは自分自身のことだけだ。自慢げな自分語りをいくらしても、そんなものに興味を持つ者はいない。常識ある大人ならそう考えるものだ。

ホームページの簡単な更新を担当してくれている事務員の女性に尋ねたところ、ホームページの文章を書き換えたり、新しいページを追加したりする作業はそう難しくないとのことだった。彼女の指導のもとで実際に試してみると、メールやワープロが使える程度にパソコンに慣れていれば、技術的な問題は何もなかった。


その日の夜から、社長の孤独な作業が始まった。自宅で夕食を終えた後、21時には事務所に戻ってきて、一人でホームページの文章を書き換える。しかし作業は難航した。たった1ページを満足な出来に仕上げるだけのことに、何日もの時間を要した。もとの文章があまりにもひどかったのだ。

もとの文章はホームページの制作会社が作ったものだ。カタログのような美辞麗句が踊っていたが、誰に向けたものなのかが明確でなく、したがって誰が見ても興味を持てない代物だった。今までホームページから引き合いがなかったのも当然だ。しかし社長は、誰を責める気にもなれなかった。チェックを怠ったのは自分だからだ。

作業開始から2ヶ月ほどが経った頃、初めてホームページからの引き合いがきた。社長は嬉しさを感じると同時に、強い焦りを感じた。文章の書き直しはまだ半分ほどしか終わっていない。自己中心的な、売り手目線のページがまだ大量に残っているのに、その間にもホームページは誰かに見られているのだ。

最初の引き合いがきてからは、夜だけでなく日中にもできる限り作業時間を捻出するようにした。誰かに見られ、引き合いがくる、というホームページの機能は、営業活動そのものだ。それは片手間にやるべき仕事ではない。そう考えてからの作業は速かった。それまでの数倍のペースで作業は進み、ついにすべてのページを書き換えた。


しかし作業はそれで終わりではなかった。放置されていたブログに手を入れることにしたのだ。ブログはホームページ制作会社の提案で始めたものだったが、更新を担当していた営業社員が退職してからは手つかずだった。記事の内容は、その社員がその日に食べた昼飯が中心だった。これらの記事をすべて削除し、新たに社長ブログを始めた。

この会社が扱っている商品は業務用機械で、販売先は主に飲食店や生鮮食料品店だ。それらの店が抱えている課題や問題を、機械を設置することで解決するのが仕事である。社長ブログは、顧客が抱える問題や課題にフォーカスし、複数の解決策を提示するというスタイルを取った。

対象も目的も明確になり、対象にとって役立つことを記事にし始めると、主に検索を通じてホームページのアクセス数は増え始め、それにともなって引き合いも増えていった。それらのメールや電話を受けているのは、ホームページの更新を担当していた女性だ。彼女はここ数ヶ月でホームページに何が起きたのか社長に尋ねた。社長は次のように答えた。

「一方的に自社の売り込みばかりするのは売れない営業マンの典型なんだ。うちのホームページはそういう売れない営業マンのようなものだった。売れる営業マンは、相手の立場で相手の役に立つことを話すんだ。そうして信頼を獲得したあとで、相手の抱える問題を解決する手段として、自社の製品やサービスを薦める。私はそれをホームページでやったんだよ」

社長は話しながら、数ヶ月前にSNSを通じて目を覚まさせてくれた輸入衣料品店の男を思い出していた。自慢げで自己中心的な投稿を腹立たしいほど繰り返していたあの男がいなければ、自分も同類であることに気付くのは遅れただろう。あの男に感謝しなければ。もっとも、あの男の投稿はずっと前に非表示にしたままだが。