ブラックハットSEOやスパム行為などについて、その正当性を主張する論調も根強くある一方で、依頼者を擁護し悪徳SEO業者の手口に対して義憤を募らせるような論調も目にします。しかしこれらの議論には重要な視点が抜け落ちています。ブラックハットSEOの正当性やその依頼者について、考えをまとめてみました。

ブラックハットSEOの論理

SEOスパムとかブラックハットSEOと呼ばれる手法があります。端的には検索エンジンを欺いて上位表示を獲得するというものですが、こうしたものを好む、または必要悪として許容する態度をとる人物や企業は多くあり、彼らは次のようなことを自己正当化の論理として用います。

  • 市場は厳しい競争にさらされており、それは検索結果においても同様である。競合他社が実施している施策であれば、競争原理の観点から自社も実施するのは当然である
  • 会社は利益を出すために存在しているのであり、会社が利益を出すために有効な手段であるならば、それが違法行為でない限り利用するのは合理的判断である
  • ビジネスの世界で求められることは常に、より少ないコストで、より速く、より高い効果を出すことである。そのための手段が違法でないなら利用しない理由はない
  • Googleという一企業が独自に定めたガイドラインを守らないというだけであって、国や自治体が定めた法令に違反するような違法行為や犯罪をするわけではなく、完全に合法である
  • 工夫を凝らして検索エンジンを出し抜くという行為には知的探求心を満たす楽しみがある。これは検索エンジンの開発者との知恵比べであり、戦い甲斐のあるゲームだ

上記のそれぞれは、どれも一定の同意が得られるものばかりなのではないでしょうか。少なくとも、正面から反論できるものは一つもありません。これがブラックハットSEOの論理であり、一見するとまったく正当に見える、というのが厄介なところです。

しかしこれらには重大な見落としがあります。それは「欺かれるのは誰か」という問題です。彼らは検索エンジンを欺くと言いますが、欺かれているのは検索エンジンでしょうか? 検索エンジンを騙して、検索エンジンから金品を詐取しているのでしょうか?

スパムが欺いている相手は消費者である

当然ですが、検索エンジンを騙すことに成功しても、それだけでは利益になりません。その検索結果を通じて来訪した消費者から金銭を詐取して初めて売上げになり、利益につながるのです。

つまりブラックハットSEOの最終的な目的は検索エンジンを騙すことではなく消費者を騙すことだということです。ブラックハットSEOを採用するということはつまり消費者を騙してでも売りたいという姿勢の表れであり、まともな企業のすることではありません。

  1. 検索エンジンを利用するのは一般のユーザーであり消費者である
  2. 検索エンジンを欺くことは消費者を欺くことである
  3. ブラックハットSEOは消費者を欺くことを目的とした手法である

ブラックハットSEOや検索エンジンスパムそのものは、各種法令には違反してはいないかもしれません。しかしだからといって問題がないと考えるのは、企業倫理や商道徳の観点から見て異常です。消費者を騙すことを問題ないと考える企業が正常であるはずがありません。

つまりまとめると、スパムに手を染めるということは、各種法令には違反していなくても企業倫理的には重罪である、ということです。これを正当化する論理はすべて詭弁であり、傾聴に値するものではありません。

加害者は誰で、被害者は誰か

スパムの話題というのは多くの場合、スパム事業者(多くはSEO会社を名乗っている)だけが一方的に悪者にされています。例えば次のような話は、頻繁に耳にするだけでなく、実際に筆者の元に相談が寄せられることもあるものです。

  • リンクスパム(SEO会社による有料リンク)を実施していたらペナルティを受けた
  • 電話営業のSEO会社に依頼したら何の効果もないリンクスパムを実施され、契約解除に応じてもらえず高額の報酬を支払い続けた
  • ネットで見つけた格安のSEO会社に依頼したら、外すことのできないスパムリンクを海外サイトから大量に貼られた

こういう話の多くが加害者(スパム提供者)と被害者(スパム依頼者)という構図で語られ、リンクスパムを依頼した企業が、まるで自分が一方的な被害者であるかのように主張していることには違和感を禁じ得ません。

そもそもですが、検索を、ひいては消費者を騙そうとしたのはそのスパムを依頼した側であり、スパムの供給者は単にそのニーズに応えただけに過ぎません。この構造を整理するなら次のようになるでしょう。

主犯
依頼者(スパムの実行を指示し報酬を払った)
実行犯
スパム提供者(依頼と報酬を受けてスパムを実行した)
従犯
検索エンジン(スパムが可能な状況を作り出した)
被害者
消費者(主犯に騙され主犯から何かを買った)

内製でスパムを実施する場合には上記の主犯と実行犯が同一になる(そのケースも多い)ことからもわかるように、スパムを依頼する者と提供する者は共犯関係にあるのであって、どちらかが一方的に悪であるなどということはあり得ません(実際には犯罪であるとは限りませんが)。

この構図に従って依頼者とスパム提供者のどちらがより悪質かというなら、それは依頼者のほうです。にもかかわらず、この項の冒頭で述べたような例では、主犯格である依頼者に同情的な意見が散見され、筆者などは強い違和感を覚えるのです。

依頼者に対する同情の余地

スパムを依頼した結果ペナルティを受けたとか、何の効果もなかったとか、契約解除でもめたとか、契約解除後にもリンクを外せなかったとか、こうした問題の原因の過半は依頼者の側にあるというのが筆者の意見ですが、これは少しばかり厳しい印象を持たれるようです。

こうした問題は依頼者側の身から出た錆であり自業自得であると簡単に断罪して終わりにしたいというのが正直なところですが、依頼者に同情的な人々の論拠も一定の説得力を持っており、問題を難しくしています。その論拠とは次のようなものです。

  • リンクスパム会社はしつこい電話営業と強引な訪問営業で契約をもぎ取ってきたのであり、依頼者は悪徳商法の被害者のようなものである
  • リンクスパムサービスの一部は格安であり、そのサイトには事業者にとって魅力的な(助平心を煽る)セールストークが並ぶ。依頼者がつい気軽に依頼してしまうのも無理はない
  • そもそも事業者であれば、安く速く簡単に儲けたいと考えているのは当然のことであり、そこに魅力的な(魅力的に見える)オファーがあれば飛びつくのも仕方がない
  • 中小企業が経営者の判断で依頼するなら弁解の余地はないが、中堅以上の企業に属するマーケティング職の従業員で、日々成果を求められ四半期ごとに査定されているような人物であれば、後先考えずにスパムを依頼するのも無理もない

確かに上記のような事情であれば、いくらかの同情の余地はありそうな気もします。しかしだからといって、内容に納得して書面に捺印して代金を支払ったという事実は動かしようのないことです。結局のところ彼らは、自分の意思でスパムを選び、消費者を騙すことを選び、代金を支払ったのです。

たとえそれが強引な営業手法に起因したものであろうと、無知に起因したものであろうと、出来心のようなものであろうと、厳しく成果を求められている現状に起因したものであろうと、消費者を欺かないという通常の倫理観があればスパムという選択肢はないはずです。

スパム業者と同様かそれ以上に、依頼者の倫理観は狂っています。トラブルが起きた際の「自分こそ被害者であり責任は業者の側にある」というような依頼者側の一方的な、自分のことを棚に上げた主張こそが、その狂った倫理観の証左であるように筆者には思えます。

唯一のメリット

ここまで少しばかり手厳しくスパムを断罪する内容で書いてきましたが、実のところスパムには、ことにリンクスパムには、多少のメリットがなくもありません。そのメリットとはバックリンクの調査で異常な倫理観を持った企業を見分けられるということです。

例えば無料の Bing Web マスター ツールを使うなどして対象サイトのバックリンクの調査をすれば、おかしなリンク元があるかないかくらいはすぐにわかります。リンクスパムと思われるリンク元(例えば中国語のブログなど)が大量に見つかった場合、そのサイトの運営者は信頼に値しません。

生活者として低価格な消費財の購入を検討するような場合にはここまで手間をかける必要はないと思いますが、企業間取引における与信判断には活用できるでしょう。取引を始める前に相手が自分を騙そうとしているかどうかがわかる、というのは有意義です。

そしてもう1点重要なことは、リンクスパムに手を出すような非倫理的な企業というのは、市場全体では少数派に過ぎないということです。SEOやウェブ制作のような仕事をしていると、その種の非倫理的企業をいやでも多く目にするので多数派であるかのように錯覚しがちですが、それはあくまでも錯覚です。

筆者らウェブ関連マーケティング業の従事者は、そうした非倫理的企業との付き合いを減らし、多数派の、普通の企業倫理を持った企業と優先的に付き合うようにするべきでしょう。わざわざ非倫理的企業と付き合う必要はありません。その与信判断において、スパムは足切りの重要な指標になり得ることも、覚えておくとよいのではないでしょうか。