関西Webマスター研究会が主催するセミナーの、2007年最初のセミナーに登壇し「情報検索の最新動向の視点から2007年のサイトづくりの大事なこと」という講演をしてきました。この記事では、その講演内容を書き起こします。一言で表現するなら「ネットの役割に変化に合わせて、企業サイトの役割も変化すべき」という内容です。

検索ばかりが情報探索ではなくなった

以前にこのブログでも「Webにおける情報探索行動の変化と情報発信者の対応」という記事で紹介しましたが、人間の情報探索行動には以下の3種類があります。

1. 情報問題解決
はっきりとした目的があって、Web 検索や図書館などを利用して問題解決のために情報を探索する
2. 環境モニタリング
新聞や雑誌やテレビや電車の吊り広告や街頭のポスターや RSS などをモニタリングし、役立ちそうな情報を取捨選択する
3. 情報との遭遇
上記2点のような情報探索行動の中で、意識して探していたわけではないのに役立つ情報に偶然出会う

情報検索のスキル上記は「情報検索のスキル—未知の問題をどう解くか」(三輪 真木子 著)から得た知見です。

このうち、Web における情報探索行動は「1. 情報問題解決」を主体としていたため、企業サイトにおいては、詳細な情報をどんどん公開していくことに主眼を置き、ユーザーの情報問題解決に応える、というアプローチが採られてきました。

しかし2005年から2006年にかけては、それに加えて、RSSリーダーやソーシャルメディアを使った「2. 環境モニタリング」型の情報探索行動が顕著になってきました(もちろん Web 検索を使った情報問題解決型の行動が減ったわけではありません)。

目の前にある問題を解決するために情報を探索するというだけではなく、日常生活や社会生活において有意な情報を環境モニタリングから得ようとする、といった情報探索行動が、Web 上でも活発になってきたということです。

こうした現状を受けて、企業サイトにおける情報発信の形は、従来のようないわゆる「詳細なカタログ情報を掲載する」というものに加えて、ニュースや Tips を含めた「定期的なお役立ち情報の配信」といったものへとシフトしていく必要が生まれてきているように思います。

分類ばかりが情報の整理ではなくなった

従来、サイトの設計を行う際には、美しいツリー構造になるように情報を分類・整理し、ユーザーがサイト内で迷子にならないように、というようなアプローチが採られてきました。これはグローバルナビゲーションやローカルナビゲーションの設計ルールなどに顕著に表れています。

しかし近年のいくつかの調査によって、ユーザーはサイトの構造をツリー構造として捉えていないことが明らかになってきました。ユーザーはサイトにアクセスした際、トップページを中心としたウェブ型の構造を頭に描くようです。図にすると以下のような感じです。

ユーザーから見たWebサイトの構造この中で、赤いノードはトップページを、黄色いノードは第二階層を、緑色のノードは問い合わせページを、それぞれ表しています。もちろんこの図を、Web 制作者が設計する際に考えたようなツリー型の階層構造モデルとして描き直すことも可能ですが、重要なことは、ユーザーはサイトの構造を階層構造として捉えるのではなく、関係性に基づくネットワーク構造として捉えるということです。

従来は Web においても、情報の分類は、図書館の目録やディレクトリ検索サイトのように、分類学的な木構造階層構造が一般的に使われてきました。しかし近年では、新たにフォークソノミーに見られるような、階層構造を持たない分類方法も登場してきました。<この背景は、制作者が意図した分類がユーザーの認識と一致しないことが多いことや、ユーザーがドキュメント同士の関連性を元にサイトの構造を理解しようとすることが主たる要因です。

サイト内においては、サイト運営者側が「見せたい」と考えているものと、ユーザーが「見たい」と考えるものが一致せず、サイト運営者が用意するナビゲーションがユーザーにとっては正常に機能しない、といったことも頻繁に起きているようです。

つまり、サイト内の情報が膨大になるにつれて、サイト設計者の意図とユーザーの意図が乖離してくるような状況が進んでいくことは、ある意味では不可避であり、サイト運営者はタグ付けやサイト内検索などの新たなナビゲーション方法を追加する必要があるかもしれない、ということです。

ポータルばかりが情報ハブではなくなった

従来、情報の取捨選択や構成、配置、関連付け、といった編集作業は、大手のメディアが一手に引き受けてくれていました。Web においては各種のポータルサイトなどがその好例であり、Web 以外ではテレビや新聞などのマスメディアがその好例でしょう。

従来の Web 上では、検索エンジンやニュース配信機能を擁するポータルサイトがトラフィックの大半を捌いており、自分のサイトにトラフィックを誘導しようとする場合、広告や SEO などの方法を使ってポータルサイトに依存するというのが通例でした。

しかし、ソーシャルメディアと呼ばれるユーザー主体のメディアが登場するに至って、その状況は変わりました。もちろん現在でも、ポータルサイトは従来どおり巨大なトラフィックを捌いていますが、現在ではポータルサイトだけでなく、ソーシャルメディアもまた、巨大なトラフィックを捌くようになってきたのです。

ソーシャルメディアの特徴は編集権がユーザーにあることです。ソーシャルメディアを利用することで、ユーザーは編集作業をしているということを自分で意識することなく、しかし積極的に編集作業を履行しており、この結果、ソーシャルメディアを通じてユーザーが認めた高品質なコンテンツが莫大なトラフィックを集めるようなことが起こります。

そして、集客を検索エンジンを中心としたサーチマーケティングに依存するということは、多くの企業にとってはたいへんな落とし穴になります。記事「SEOのデメリット」でも言及したように、サーチマーケティングによる集客は冷やかしや通りすがり、一見さんのような、あまり質のよくないユーザーの増加を助長するという一面があるためです。

この点からも、集客をサーチマーケティングだけに頼るのではなく、ソーシャルメディアも積極的に活用していくべきでしょう。

4. 企業サイトの役割は情報発信だけではなくなった

その昔、僕たちが初めてインターネットに接続し、Web の情報の海の中に身を置いた際に感じたことは「WWWはとてつもなく巨大な図書館のようなもので、知の宝庫だ」ということでした。国内だけでなく海外の情報にも容易にアクセスでき、それこそ日常生活から社会生活に至るありとあらゆる情報が容易に取得できるということに興奮したものです。(もちろんその興奮は今も続いていますが)

しかし、Web を巨大な図書館のように捉えているのは、いわばインターネットの旧世代の住人であって、現在の若者たちの大多数は、インターネットをコミュニケーションツールの一種であると考えています。つまり現在の若い人たちにとっては、コンピューターとは初めから通信端末であり、ケータイなどと同種のものなわけです。これは、僕の世代(1971年生まれ)の多くは、コンピューターに対する認識を以下のように変化させてきたこととはかなり異なります。

  1. はじめてコンピューターを見たとき、それは高性能な計算機だった
  2. コンピューターを使い始めたとき、それは高機能なワープロだった
  3. コンピューターで遊びはじめたとき、それは高性能なゲーム機だった
  4. コンピューターでインターネットに接続したとき、そこには巨大な図書館のように情報が蓄積されている場のように感じた
  5. コンピューターを通信機器として利用しはじめたとき、主要な機能は電子メールで、それは郵便やFAXに替わるものだった
  6. テキストチャットやボイスチャットを始めるようになり、それは電話に替わるリアルタイムなコミュニケーションの道具になった
  7. SNS やブログを始めて、インターネットは社交の場になった

現在の若い人たちにとっては、コンピューターははじめから通信機器であり、コミュニケーションツールです。そしてインターネットは社交の場です。しかし、僕たち旧世代の人々にとっては、インターネットに始めて接続した際に感じた「目前に広がる無限かつ無料の情報源」という印象が強すぎたために、企業サイトを企画・制作しようとする際には、その資料性や情報の網羅性にばかり注目してしまうという弊害を引き起こしています(もちろん僕も含めて)。

しかし、今やインターネットの役割は変化し、極端な言い方をすれば「図書館のようなものからコミュニケーションツールになった」のであり、この点について記事「ウェブはいかにして生まれどこに向かうのか」で書いた WWW を発明したティム・バーナーズ=リーが夢に描いた世界がそのまま表出したような格好になっています。

そのようにインターネットの役割が変化したなら、企業の Web サイトの役割もまた変化すべきです。つまり僕の言わんとしていることは、企業サイトの Web サイトは、単に詳細なカタログを提供するにとどまるような段階を超えて、ユーザーを巻き込み、話題を提供し、ユーザーとのコミュニケーションの場として機能するようにシフトしていくべきでしょう。

ブログスフィア アメリカ企業を変えた100人のブロガーたちこのあたりは記事「2.0時代のSEOは「釣り」と「煽り」」で触れた通りです。また、書籍「ブログスフィア – アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち」にも興味深い記述が多く見られるため、セミナー中でも紹介しました。

余談ですが、こうした傾向が加速していくと、僕が身を置いている Web 制作業界の役割も変化して行かざるを得ません。少しずつですが、中小零細企業を中心に、Web 制作会社に対して期待する内容も変化してきているのです。これについては記事「中小企業のWeb制作業界への期待と実際」で考察しています。ご参考まで。